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横浜家庭裁判所 昭和63年(家)29号 審判

申立人 伊藤吉男

事件本人 マリーナ・セブレ・アントニオ

主文

申立人が事件本人を養子とすることを許可する。

理由

一  本件記録によれば、次の各事実を認めることができる。

申立人は、昭和17年5月1日に出生し、日本国籍を有し、昭和41年ころからコロンビア産のエメラルドの輸入業を営み、日本と同国を往来してきたものである。事件本人の母であるフローニー、アビラン、アントニオは、同国人であるネグレテ、フエルナンデス、カサレスと婚姻し、同人との間に事件本人をもうけた後同人と離婚したが、昭和53年11月7日申立人と婚姻し、申立人との間にふたりの子供をもうけ、同国ポコタ州○○××-××-××に住み、会計士として稼働しながら、申立人との子らの監護養育にあたっており、本件養子縁組に同意している。他方、ネグレテ、フエルナンデス、カサレスは、事件本人の母との離婚以来事件本人の監護養育にはなんら関っておらず、現在その住所を知ることができないものであるため、同人から本件養子縁組の同意を得ることができない。事件本人は、事件本人が10歳ころであった昭和53年11月ころから申立人の監護養育のもとに成育し、同国の高校卒業後、日本語を習得するために昭和62年6月来日し、現在は、申立人と同居し、申立人の経済的援助のもとに日本語学院に通学しており、申立人を実父同様に受け入れているうえ、本件養子縁組を希望し、これに同意している。以上の各事実を認めることができる。

二  そこで、以上の認定の各事実に基づいて本件につき検討すると以下のとおりである。

1  まず、本件の裁判管轄につき検討するに、申立人と事件本人とは、いずれも日本に住所があるから日本の裁判所に本件の国際的裁判管轄権があるということができるうえ、申立人と事件本人の住所はいずれも横浜市内にあるから当裁判所に本件の裁判管轄があるということができる。

2  次に、本件の養子縁組の準拠法につき検討するに、日本の法例19条1項は、「養子縁組の要件は、各当事者につき、その本国法によってこれを定める。」と規定しているから、申立人については日本法が、事件本人についてはコロンビア共和国法が適用されることとなる。そして、申立人の準拠法である日本の民法によれば、本件のような成人間の養子縁組については、家庭裁判所の許可を要せず、実体的要件が備わっているのであればその届出だけで養子縁組が成立するものとされており、本件についてはその実体的要件に欠ける点はみあたらない。

3  他方、事件本人の準拠法であるコロンビア共和国法につき検討するに、同国においては、民法269条乃至286条をもって養子縁組を認めているので本件養子縁組を成立させることは可能である。次に、同国の民法275条は、「養子縁組は、裁判所の決定を要する。」と規定しているが、同条の要求する裁判所の決定は、日本国においては家庭裁判所の許可審判をもって代用することができるものと解され、したがって当裁判所は、家事審判法9条甲類7号を類推適用して本件につき許可不許可の審判をすることができるものと解する。

4  そこで、同国の民法に照らして本件を検討すると、同法272条は、「養子となるためには、養子となる者が18歳未満であることを要するが、養親となる者が養子となる者を18歳になる前から養育している場合はその例外となる。」と規定しているところ、本件においては、事件本人は、18歳以上の者であるものの申立人が事件本人を18歳になる前である昭和53年11月ころから養育しているものであることは上記認定のとおりであるから、本件養子縁組を成立させることとしても同条の規定に違背するものではないものと解される。次に、同法274条は、「養子縁組を行うには、養子となる者の実父母の同意を要する。118条及び119条の規定に基づき、養子となる者の実父母の一方の同意がない場合は、他の一方の同意で足りる。」と規定し、同法118条は、父の住所が知れないときは父を欠く場合にあたる趣旨の規定をしているところ、本件においては、本件養子縁組につき、実父の住所は知れず、事件本人の実母の同意があることは上記認定のとおりであるから、本件養子縁組を成立させることとしても同法274条の規定に違背するものではないものと解される。その他同法の諸規定に照らして本件をみても、本件養子縁組を成立させることについて妨げとなる事情はみあたらない。そうすると、本件養子縁組を成立させることとするのが相当である。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 伊藤茂夫)

〔参考〕 コロンビア共和国民法(抄)

第118条 父又は母若しくはその他の尊属の欠除とは、単に死亡を原因とする場合にとどまらず狂人痴呆あるいは国内に不在でその早い帰国が期待できないとき、又はそ、の住所が知れないときである。

第269条 満25歳以上の者は、養子となる者より15歳以上長じており、物理的、精神的、社会的に18歳未満の未成年者を扶養できる状態にあるときは、養子縁組をすることができる。

第270条 養親が、嫡出子、非嫡出子又は養子を有していた場合、現在有している場合、又は将来有することがある場合であつても、養子縁組の成立を妨げない。

第271条 夫婦は、その一方が25歳以上であれば、双方で養子縁組をすることができる。

離婚をしていない配偶者は、他の一方の配偶者の同意を得て(単独で)養子縁組をすることができる。

後見人が被後見人を養子とするには、あらかじめ被後見人の財産取得許可を得なければならない。

第272条 養子となる者が18歳未満のときは、その者を個別的に養育できるのでなければ、養子とすることができない。

18歳未満の未成年者が、たとえ財産を有していたとしても、養子縁組は、後見人の要求する形式で行われる。

第273条 非嫡出子は、その実母又は実父の養子となることができる。非嫡出子は、実父母のいずれかと婚姻した相手方の養子となることができる。夫婦の一方の嫡出子は、他の一方の養子となることができる。

第274条 養子縁組を行うには、養子となる者の実父母の同意を要する。第118条及び第119条の規定に基づき、養子となる者の実父母の一方の同意がない場合は、他の一方の同意で足りる。

養子となる者に実父母がいないときは、後見人の許可を要する。後見人がいないときは、未成年者保護者(Defensor de Menores)の、未成年者保護者がいないときは、コロンビア家族福祉協会(Instituto Colombiano de Bienestar Familias)の認可団体の許可を要する。

未成年者が、民法上婚姻可能期にあるときは、その者の同意も要する。

第275条 養子縁組は、裁判所の決定を要する。裁判所の決定を得た養子縁組は、戸籍に記載される。

ただし、養子縁組の効力は、裁判所の決定が下されたときから生ずる。

第276条 養親及び養子となる者は、養子縁組により、第284条及び第285条に掲げる制限のもとに、嫡出子と同等の権利義務を有する。

第277条 単純養子縁組によつて、養子となる者は、実方の家族との関係は終了しない。その家族内における権利義務をも有する。

第278条 完全養子縁組によつて養子となる者は、第140条第9号の婚姻障害の規定を留保して、実方の家族との関係は終了する。したがつて、

1 養子となる者の実父母及びその他の親族は、養子となる者及びその財産に関するすべての権利を失う。

2 第335条乃至第338条の定める養子となる者の真性なる母であることの反論のための、第406条の定める状態の認定を求めるための、また、養子となる者を直系卑属とするためのいかなる訴訟も提起することはできない。右に関するいかなる宣言も効力を生じない。

第279条 完全養子縁組により、養子と養親及び養親の親族との間に親族関係を生ずる。単純養子縁組により、養親と養子及び養子の直系卑属との間に親族関係を生ずる。

第280条 判事は、養親の申請に基づき、単純養子縁組を完全養子縁組に変更することができる。完全養子縁組採用許可の決定文において、養子の実父母の姓名が明らかなときは、その姓名を削除することとする。

第281条 単純養子縁組は、養親の申請に基づき、完全養子縁組に変更することができる。

第282条 左の遺棄された者と養子縁組をすることができる。

1 捨て子(expositos)

2 社会福祉施設(establecimiento de asistencia social)に引き渡された未成年者。ただし、3か月以内にその実父母又はその後見人の異議申立てがない場合に限る。

3 コロンビア家族福祉協会(Instituto Colombiano de Bienestar Familias)、又は同協会の認可団体の仲介によつて養子縁組をするため、法定代理人から一任された未成年者。

第283条 1964年大統領令第1818号第8条及び第9条の定める手続により、未成年者が遺棄された状態にあることを宣言する権利は、未成年者保護者(Defensor de Menores)が有する。

第284条 完全養子縁組における養子は、嫡出子として、単純養子縁組における養子は、非嫡出子として相続する。すべての養子は、養親の相続人であり、1936年法律第45号第23条の規定に従い、遺産の4分の1を取得することができる。

遺言のない相続においては、嫡出子が養子に代わる。

第285条 完全養子縁組における養親は、その養子の相続において、養子の実父母に属していた相続に関する権利を有する。単純養子縁組においては、養親は、養子の実父母のいずれか一方に属する分与財産を受けるものとする。養子の実父母が共にいないときは、養親がこれにとつて代わる。

養親は、養子の相続人となる。

第286条 コロンビア家族福祉協会(Instituto Colombiano de Bienestar Familias)は、保護を要する18歳未満の未成年者に個別的保護を与える。コロンビア家族福祉協会(Instituto Colombiano de Bienestar Familias)は、その機能を導有するため、かかる未成年者を、その養育と教育を施し得る公共の、又は私設の専門機関に委託することができる。

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